DX Accelerator
ビル管理の巨大市場――『ビルサポ』が描く未来

ソリューション事業創造部 ビル経営支援グループ
プロジェクトメンバー
後段左から:佐々木 桂一郎氏、辻野 逸人氏、西村 慶太氏、佐藤 琢氏
前段左から:庄野 貴之氏(グループマネージャー)、山田 翔吾氏
後段左から:
佐々木 桂一郎氏、辻野 逸人氏、西村 慶太氏、佐藤 琢氏
前段左から:
庄野 貴之氏(グループマネージャー)、山田 翔吾氏
中小ビルの修繕や管理において、多くのビルオーナーが課題を抱えています。築年数の経過とともに建物の図面は紙のまま劣化し、設備の経年情報や更新履歴も十分に整理・データ化されていないことから、オーナーとビルメンテナンス会社・工事会社との間に情報の非対称性が生じているのもその一つです。結果として、ビルリフォームなどの際に工事範囲を特定できず工期や費用が増加してしまう、適切なメンテナンスや設備更新のタイミングを見逃してしまうなど、想定外のコスト増につながるケースも。こうした効率化が十分に進んでいなかったこの領域に挑むのが、東京ガス発の新規事業「ビルサポ」です。東京ガスグループの「DX ACCELERATOR 2025」で見事金賞を受賞したこの取り組みは、ビルオーナーとビルメンテナンス業者・工事会社をつなぐプラットフォームですが、その最初のステップは「図面のデータ化」というシンプルなサービスから始まります。
なぜ、社会インフラを担う東京ガスが、中小ビル管理という新たな領域で急速に支持を広げているのか。御徒町の拠点に足を運び、その始まりの場所で話を伺いました。


ビル管理の非効率を解消する、建物情報の「データ化」というアプローチ
はじめに、「ビルサポ」のサービス概要について教えてください。

山田
「ビルサポ」は、ビルオーナー様とビルメンテナンス事業者様をつなぐマッチングプラットフォームです。最大の特徴は、図面をはじめとする建物情報をデータ化し、それを基にマッチングやメンテナンス業務の効率化を図る点にあります。特に中小規模のビルでは、紙媒体での保管や情報共有など従来型の管理が根強く残っており、効率的とは言えない状況がありました。私たちはそこにDXの観点を持ち込み、既存の優れたツールを組み合わせることで、ビル管理領域を最適化するサービスを提供しています。
メインターゲットである中小ビルのオーナーは、どのような課題を抱えていたのでしょうか。

庄野
中小ビルのオーナー様とコミュニケーションを取る中で、多種多様な設備業者とのやり取りに多くの手間がかかっている実態がわかりました。また、設備に関する十分な情報や知識が手元にないことから、オーナー様にとって適切な判断が難しい場面もあり、その結果として、必ずしも最適とは言えない条件やタイミングでの対応につながってしまうケースも少なくありません。こうした情報の非対称性を解消したい、という思いがこの事業の出発点です。
数ある課題の中から、「図面のデータ化」に着目された経緯を教えてください。

山田
100件以上のインタビューや現場調査を通じて見えてきたのが、「紙図面」の管理という課題でした。例えば、設備業者への貸し出しなどで図面の劣化が進んでいたり、書類が整理されないまま保管され、円滑な事業承継の妨げとなっていたりするケースです。

庄野
平均築年数37年を超える中小ビルでは、竣工時の紙図面は劣化や紛失のリスクを常に伴います。図面の欠損は、工事費用の増加や、ビルの資産価値の低下といった問題に直結します。私たちは、この「図面」に関する非効率な状態にこそ、解決すべき本質的な課題と事業機会があると考えました。

現場に寄り添うアプローチと、「中立性」という揺るぎない強み
事業の核となる「図面のデータ化」は、具体的にどのように進めているのでしょうか。

西村
私たちは、ビルオーナー様のところへポータブルスキャナーを持ち込み、その場で紙図面をデータ化する「現地でのスキャン」を大切にしています。大切な図面を外部に持ち出すことに抵抗を感じるオーナー様もいらっしゃるため、私たちが現地に赴き、1時間程度で作業を完了させるのです。こうした活動を継続してきたことで、すでに1,000棟以上でのデータ化を実施し、オーナー様との信頼関係の構築につながっています。その積み重ねとして、近隣のビルオーナー様をご紹介いただくといった、良い循環も生まれています。
そうしてデータ化された図面は、どのようにビジネスモデルにつながるのでしょうか。

山田
「ビルサポ」は、データ化した図面をはじめとするビル情報を活用し、ビルオーナー様と設備会社などのビルメンテナンス事業者をインターネット上でつなぐマッチングの仕組みです。例えば、オーナー様が「空調工事をしたい」と情報を掲載すれば、設備事業者は効率的に営業機会を得ることができます。私たちは、そこで生まれる新たな価値の一部を手数料としていただくことで、事業を運営しています。この仕組みにより、関係者すべてにメリットを生み出す「三方よし」のビジネスモデルになっています。
ビル管理サービスを東京ガスが手がけることの、他社にはない独自の強みはどこにあるのでしょうか。

辻野
特徴の一つとして、私たち東京ガスの「中立性」が挙げられます。特定の工事会社や設備メーカーではない、社会インフラを担う企業という立ち位置だからこそ、特定の業者や製品に偏ることなく、お客さまの視点に立ったサービス提供が可能です。「ビルサポ」は、こうした東京ガスの特性を活かした事業です。


御徒町のオフィスから始まった挑戦――事業成長を支えるチームと独自のカルチャー
御徒町のオフィスには、どのような経緯があるのでしょうか。

山田
創業当時からご支援いただいているお客さまのビルの一室です。「ビルサポ」の理念に共感くださったオーナー様のご厚意により、オフィスとして活用しています。ここを拠点に、多くのビルオーナー様をご紹介いただき、私たちは地域に根付いた形でスタートを切ることができました。
浜松町の東京ガス本社とは別の拠点を構えたことで、どのような効果がありましたか。

庄野
本社とは別の拠点を構え、臨機応変に活動できる体制を組んだことで、意思決定のプロセスが大きく変わり、事業のスピードは格段に向上しました。メンバー各自が責任者となり、その場で判断できる範囲を拡大したことで、迅速に施策を進められるようになりました。創業当初は少人数でしたが、一人ひとりが高い生産性を発揮することで、少数精鋭ながら成果を積み重ねてきました。本社とは異なるスピード感と、そして新規事業に求められる強いコミットメントが、この場所で育まれてきたと感じています。
現在のチーム体制について教えてください。

佐々木
現在は東京ガスの社員6名に加え、本事業に共感した専門人材やフリーランスの方々も含めた約30名の機動的なチームで運営しています。多様な人材が集まっている背景は、この事業が持つ成長性や社会的意義、そしてユニークさにあると考えています。新規事業の立ち上げに携わる経験に加え、お客さまからの反応を肌で感じながら、自ら考えサービス改善に活かせる点も、メンバーの大きなモチベーションとなり、事業の継続・発展につながっています。

図面データを起点に描く、事業の未来と社会への貢献
この事業の根幹にある、業界の構造的な課題とビジネスチャンスについて教えてください。

佐藤
中小ビルの総数は今後も大きく変わらないと予測される一方、メンテナンスを担う人材は減少が見込まれます。この「需要と供給のギャップ」は、業界全体が向き合うべき大きな社会課題です。私たちはこの社会課題を、DXを活用した効率的な仕組みで解決し、それを「中小ビル」というポテンシャルの大きな市場で展開することに、大きな事業機会があると考えています。
最後に、今後の事業の展望についてお聞かせください。

庄野
今後は、中小ビルを対象に都市圏を中心に段階的な展開を進めていきます。そのために、御徒町で培った現場に根差したアプローチを「型」として確立し、オペレーション全体を標準化することで、どの地域においても再現性のある事業立ち上げを可能にしていきます。

山田
サービスの深化という面では、AI活用による業務の自動化・効率化に加え、蓄積した図面データをAIで解析し、メンテナンスが必要な箇所を予測・診断するなど、より付加価値の高いサービスへ進化させていきます。こうした取り組みを通じて、ビル管理の在り方そのものを高度化し、お客さまに新たな価値を提供していきたいですね。