DX Accelerator
デジタル取引プラットフォーム構築の第一歩を担った
メンバーたちの挑戦とは―

プロジェクトメンバー
左から:エネルギートレーディングカンパニー 電力トレーディンググループ岩田 匡平氏、杉本 圭太氏(※当時)
デジタルトレーディング推進グループ 山形 拓氏、清水 一史氏(チームリーダー)
プロジェクトメンバー
左から:エネルギートレーディングカンパニー 電力トレーディンググループ岩田 匡平氏、杉本 圭太氏(※当時)
デジタルトレーディング推進グループ 山形 拓氏、清水 一史氏(チームリーダー)
電力トレーディンググループ:
日々の需給管理および電力取引を担う部署。本プロジェクトでは業務構築や発電所現場との調整を担当。
デジタルトレーディング推進グループ:
エネルギートレーディングカンパニーにおけるDX・IT案件の推進を担う部署。本プロジェクトではプロジェクト管理、システム開発を担当。
電力業界が大きな変革期を迎えるなか、東京ガスグループは新しい挑戦に踏み出しました。
それが、複数の電力市場と多種多様なリソースを柔軟に活用するための、デジタル取引基盤の構築プロジェクトです。
発電所の設備改善や取引全体最適化のためのシステム開発と業務プロセス刷新を同時に進めた本取組みは、複数の市場に柔軟に対応できる電力取引の仕組みを整え、変化し続ける市場環境の中でも確かな競争力を発揮できる体制を築くことを目的としています。
東京ガスグループでは、自社発電所の柔軟性や分散型電源などのリソースを活用し、複数市場における電力取引を拡大して収益化すると同時に、社会への安定供給強化を目指しています。本プロジェクトは、その実現に向けた第一歩でもありました。
多様な専門分野が交わり、緻密な協働のもとで築かれた新たな電力ビジネスモデル。その背景にはどのような狙いがあり、メンバーたちは何を見据えて取り組んだのか。プロジェクト推進の中心メンバーに話を聞きました。
(本取組みは「DX ACCELERATOR 2024」で銅賞を受賞)
新市場開設を機に動き出した、新たな挑戦
プロジェクトの概要を教えてください。

山形
このプロジェクトは、東京ガスグループが有する多種多様なリソースを複数の電力市場に参入させるため、システム開発と業務プロセス変革を進めたものです。従来、当社では単一市場(kWh市場)を対象にビジネスを展開していましたが、需給調整市場をはじめとする新市場への参入を通じて、電源の新しい価値を活用できるような新たなビジネスモデルを構築しました。
プロジェクトを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

清水
太陽光や風力といった出力が不安定な再生可能エネルギーが増加し、電力需給のバランスをとる調整力も市場で取引されるようになりました。電力市場全体が多様化し、扱うリソースの変化や、従来市場のボラティリティも増大していました。これらの変化に対応するために、新たに開設された市場への参入を検討し始めたのがきっかけです。新規参入にはコスト増や制度対応のハードルの高さが課題となりますが、だからこそ早期参入することが社会貢献と事業性向上の双方にプラスになると判断し、検討を始めました。

山形
当初は、一つの発電所を対象にした取組みではありましたが、将来構想を見据え、後続の発電所や多様な電源リソースが素早く市場に入っていけるような環境を整えることも目的でした。単一のプロジェクトで終わらず、全社的な電力ビジネス戦略の布石とすることを意識していました。

プロジェクトの概略図
スピードを支えた“多様なステークホルダーとの連携”
実際にプロジェクトを進める上で、どのような課題がありましたか?

清水
とにかくスピード感をもって開発を進めることが重要でした。市場参入に遅れれば遅れるほど、チャンスを逃がしてしまうことになる。我々の技術力が成果に直結するため、スピード感とクオリティを高く持てるかどうかがプロジェクトのカギとなりました。

岩田
市場の制度がとにかく複雑で難解かつ不透明でした。制度を正しく理解しないとシステム仕様も誤るため、メンバー全員で膨大な資料を読み解きつつ、一方では新たに構築するシステムへの理解も深めながら前に進めました。
また、発電所をはじめ、様々な関係者とも連携を進めました。それぞれ立場や考えも異なるなか、それらをどのように上手くつなぎ合わせるか――最終的には全体最適を考えて各者が協力して成し遂げましたが、とにかく苦労した点でした。
そのような課題を乗り越えるために、みなさんはどのような役割を担って進めていったのでしょうか。

山形
私はもともと本所属になるまでITのキャリアはありませんでしたが、事業部門での経験を活かし、業務支援のパートナー企業と上手く協力しながら、現場の課題を翻訳してシステムに落とし込む――そんな橋渡し役でした。

岩田
我々はユーザー目線の制度対応や業務サポートを担当しました。システム面ではデジタルトレーディング推進グループに支えてもらいながら、自分たちでも一部システムを作り込みました。グループ内で知見を持つメンバーも巻き込み、制度理解や業務構築を支援しました。

清水
杉本には発電所との調整を中心に担当してもらいました。設備改善と新たなオペレーションの構築は、発電所現場と電力トレーディンググループの双方の連携が必要不可欠です。発電所側に対して、我々のビジネスモデル実現に向けて必要な要素を理解いただくなど現場に寄り添いながら、「どうすれば事業性を向上できるか」といった点を中心に整理をしてもらいました。各メンバーの強みを結集して進めたプロジェクトでもありました。

杉本
そうですね。発電所での勤務経験やその人脈を活かして、現場目線でプロジェクトを進めました。設備改善の方向性や、我々のニーズを現場でどのように満たしていくかなど、お互いの視点に立って調整を進めました。現場の信頼を保ちつつDXを進めるのは簡単ではありませんが、やりがいがありました。

現場となる袖ヶ浦ベイパワーステーションとの調整・協議を進めた
柔軟な電力取引実現への布石――新たな基盤がもたらす変化
このプロジェクトを通じてどのような手ごたえを感じましたか。

山形
デジタル取引プラットフォームの構築により、東京ガスとして市場利益を追求できるようになったことはもちろん、マルチマーケットに対応できる土台も整備されました。マルチマーケットを考慮した取引を志向する業務文化への変革は、当社にとって大きな価値になると実感しています。

清水
このプロジェクトは、複数の電力市場をつなぎ、社内外のリソースを柔軟に活用できる基盤となります。今後、新しい電源や協力者を巻き込んだビジネス展開が可能になります。市場対応力と収益性の両立を実現する新しい戦略ステージに上がったと実感しています。

岩田
その通りですよね。このプロジェクトを通じて、当社の戦略をシステムに素早く反映できるようになりました。オペレーション負荷も大幅に軽減され、その分、戦略の高度化や今後参入する新たなリソースへの対応、目まぐるしく変化する電力制度への対応などに力を注げるようになりました。他にも、ガスエンジンや蓄電池といった様々なリソースを迅速に取り込むことが可能になった点も大きなポイントです。

先を読む力と、変化を味方にする組織へ
今後の展望を教えてください。

清水
繰り返しになりますが、今回のプロジェクトで複数市場に対応可能な土台ができました。これをもとに新たな電源を集め、新規パートナーと協働しながらビジネスモデルの更なる拡大を進めていきます。電力市場制度は毎年のように変わることから、いかに変化を先取りし、戦略を更新しながら、タイムリーに最新のロジックをオペレーションへ反映することができるか。そのサイクルを迅速に回していくことを目指していきたいと思っています。

岩田
電力市場制度は決まっていたことが急に変わることも多い。だからこそ、ある程度想定を立てながらも、変化に即応して戦略を切り替える柔軟さが重要です。そこが難しさでもあり、我々がコミットして当社グループの競争力を高めることで、社会に貢献するカギにもなっていると思います。

杉本
電力市場はまだ発展途上です。その最先端を担っているという自負を持って、社会の電力安定供給に引き続き貢献していきたいと思います。