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DX Accelerator

Award Winner Interview_02
省エネと安定供給の最適解へ――
部署の壁を越えて挑む
「熱源最適制御AIソリューション」開発秘話

プロジェクトメンバー

(写真左より)グリーントランスフォーメーションカンパニー 基盤技術部 次世代技術研究所堅田 龍之介氏、土井 淳平氏 ソリューション共創本部 ソリューション事業推進部 エッジ&クラウド事業グループ内田 潤一氏、今枝 大和氏 東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社(TGES)ソリューションO&M本部 地域エネルギー設備部瀧野 惠介氏 同 地域エネルギー事業部川和田 剛弘氏 (写真左より)
グリーントランスフォーメーションカンパニー 基盤技術部 次世代技術研究所:
堅田 龍之介氏、土井 淳平氏
ソリューション共創本部 ソリューション事業推進部 エッジ&クラウド事業グループ:
内田 潤一氏、今枝 大和氏
東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社(以降、TGESという)ソリューションO&M本部 地域エネルギー設備部:
瀧野 惠介氏
同 地域エネルギー事業部:
川和田 剛弘氏

『省エネを追求すれば、安定供給に不安が残る。安定供給を優先すれば、エネルギー効率が犠牲になる。』
「省エネ」と「安定供給」の相反するニーズをいかに両立させるかが、地域冷暖房施設をはじめとする熱源プラントが抱える長年の課題でした。本取り組みは、東京ガスグループの3つの専門組織が連携し、現場に蓄積された膨大な運用ノウハウをAIで再構築することで、この難題への解決に挑戦したものです。その成果として、誰もが安定的かつ効率的な運用を実現できる「熱源最適制御AIソリューション」を開発。その舞台裏には、技術と現場、理論と実践をつなぐための地道な対話がありました。
東京ガスグループで開催された「DX ACCELERATOR 2025」で銀賞を受賞した本取り組み。実証を経て本格展開へと歩み始めた本ソリューションは、いかにして生まれ、そしてどこへ向かうのか。開発の中心メンバーに、その全貌を聞きました。

「安定供給」か「省エネ」か。AIで挑む、熱源運用という長年のジレンマ

今回の取り組みについて、具体的な内容を教えてください。

今枝

これまで熟練者の経験に頼っていた熱源設備の運用を、東京ガス独自のAIで最適化し、「省エネ」と「安定運用」を両立させるソリューションを開発しました。長年現場に蓄積された運用ノウハウと、最先端のAI技術を組み合わせた、まさに東京ガスグループならではの取り組みです。

この取り組みを始めようと思ったきっかけや課題は何だったのでしょうか。

瀧野

熱源設備とは、大規模なオフィスビルや商業施設群といったお客さま先の冷暖房を、一つのプラントで集中的にまかなう、いわば心臓部です。その運用には「安定供給」と「省エネ」という、相反する要求を両立させる難しさがあり、これまで熟練オペレーターの経験と勘によって最適な判断が支えられてきました。一方で、その日の気温の変化はもちろん、オフィスビルにいる人の数や活動量によっても、建物全体で求められる快適な温度は常に変動するため、より高度で安定した運用の実現が求められていました。そこで、実績を積んできた東京ガスのAI開発技術を活用し、この長年の課題解決に挑むことになったのです。

データと対話で解き明かす「暗黙知」――AI開発、最大の難関を越えて

現場の方々の経験や判断、いわゆる「暗黙知」を、AIはどのように学習するのでしょうか。大きなハードルだったと思いますが、どう乗り越えられたのか教えてください。

瀧野

まず「暗黙知」とは何か、という点です。例えば「プラント内にどれくらいの量の冷水バッファーを保有すべきか」といった判断が挙げられます。これは季節や時間帯によって最適解が異なり、これまではオペレーターが経験に基づいて決めていました。こうした、”マニュアル化されていない具体的な運用制約条件の一つひとつ”が全て暗黙知です。

土井

私たちは、その暗黙知をAIに学習させるため、主に3種類のデータを活用しました。1つ目は「冷熱の需要データ」、2つ目は「設備の運転データ」、そして3つ目がその暗黙知を含む「運用制約のデータ」です。特にこの3つ目は、オペレーターの方のナレッジそのものなので、これをいかにして数値に置き換えるかが、このソリューション開発における最大のハードルであり、同時に我々の強みとなりました。

瀧野

そのハードルを越えるために、私たちは「現場との対話」の中からナレッジを数値化するアプローチを取りました。一方的にデータを分析するのではなく、まず私たちがAIで算出した仮の運用結果を現場に見せます。すると、現場の判断と分析との差異をフィードバックとして受け取ることができる。このデータと実践をすり合わせていくサイクルを何度も繰り返すことで、ナレッジを少しずつデータへと変換・精緻化していきました。

川和田

まさに、そのプロセスで最も大切にしたのが「現場との信頼関係」です。AIが出した理論上の最適値と、現場が肌で感じる最適値について、気になる点や不安な点を率直に話し合い、一緒に答えを見つけていくことで、現場のパートナーとしてシステムを育てていく。このスタンスこそが、最終的に現場の皆さんの信頼を得ることにつながったのだと考えています。

なぜ内製にこだわったのか――その技術的強みとは

今回、AI開発を内製化されたと伺いました。敢えて内製化にこだわった理由を教えてください。

堅田

現場特有の制約や暗黙知が多く含まれるので、外部委託や汎用ツールでは対応しきれないと判断し、内製での開発を選択しました。内製としたことで、実証を通じて得られた気づきを即座にロジックに反映でき、現場と一体となってAIを継続的に育て高度化していく基盤を構築することができました。この「迅速にAIを育てていける」点が、内製化の大きな強みだと考えています。

このソリューションが持つ一番の強みはどこにありますか。

土井

一番の強みは、長年現場で培われてきた専門的なノウハウを、精度の高いAIモデル(特許取得済み)として実装した点にあります。これは、地域冷暖房の運用ノウハウを蓄積してきたTGES、最先端のAI開発技術を持つ次世代技術研究所、そして、それらをサービスとして実装するソリューション事業推進部という、異なる強みを持つ3組織が三位一体となったからこそ実現できました。現場の知見、先端技術、事業化の視点。これらが組み合わさった体制こそが、本ソリューションの競争力を支える中核です。

地域冷暖房の運用(TGES)、AIモデルの開発(次世代研)、ソリューションとしての事業化(ソリューション事業推進部)の各機能が連携し、ソリューションを創出する体制。

現場の変化、そして「稼ぐDX」への挑戦

このソリューション導入後、現場のオペレーターの反応に変化はありましたか?

瀧野

導入当初はやはり懐疑的な声もありました。しかし、実際に運用を始めると、「これまでにはなかった視点だ」「こういう運用もできるのか」といった、新たな気づきが現場で生まれ始めました。

川和田

もともと現場のオペレーターは、安定供給という使命を前提に、常に省エネも同時に目指すという難しい舵取りを担っています。今回のソリューションは、これまで感覚的に捉えられていた最適な運用判断をロジックとして裏付けることで、不確実性の高い部分を補完するものです。実際にAIを使いながら操業することで、その実用性や安全性を肌で感じ、「自分たちの判断を助けてくれる頼もしいパートナーだ」という理解と信頼が深まっていったのだと思います。

「稼ぐDX」というテーマのもと、社外展開も進んでいますね。事業化や収益化という観点で、どういったことを意識されていますか。

内田

外販においては、社内プラントでの圧倒的な省エネ実績が大きな強みになっています。年間5~10%程度のエネルギー使用量削減が見込まれており、大規模施設においては特に大きなインパクトを発揮します。そうした実績を強みに、社外展開を加速するとともに、省エネ・脱炭素領域におけるAIソリューションとしてのポジション確立を目指しています。

AI省エネの「民主化」へ、チームが描く未来

このソリューションは今後、どのように進化し、どのような未来を目指していくのでしょうか。

内田

このソリューションを応用できる範囲は、今回対象とした地域冷暖房プラントにとどまりません。工場やオフィスビル、病院など、同様の設備を持つあらゆる施設に価値を提供できるため、市場の広がりも非常に大きいと見ています。さらに、データセンターのように、これまで直接的な接点が少なかった成長分野にも応用が期待されており、新たなビジネスチャンスが生まれています。

今枝

チームが見据える最終的なビジョンは「AI省エネの民主化」です。現状、AIを用いた高度な省エネ技術は導入コストが高く、誰もが気軽に使えるものではありません。専門知識や多額の投資がなくとも、誰もが最適な省エネを実現できる社会を実現する。それこそが、私たちがIGNITUREとして提供していく価値だと考えています。
※「IGNITURE」とは、東京ガスグループがエネルギー分野の枠を超え、お客さまや社会の未来に向けて先進的で多様なソリューションを提供するブランド名です。詳しくはこちら